経営資源集約化税制とは、中小企業の経営資源の集約化(M&A)を後押しするため、令和3年8月からスタートした制度です。正式名称は「中小企業の経営資源の集約化に資する税制」となります。
具体的には、経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が計画に基づくM&Aを実施した場合に、以下の措置を活用できます。
・設備投資減税(中小企業経営強化税制)
認定を受けた計画に基づき一定の設備を取得や製作等した場合に、即時償却又は取得価額の10%の税額控除(資本金3000万円超の中小法人は 7%)が選択適用できます。
・準備金の積立を認める措置(中小企業事業再編投資損失準備金)
認定を受けた計画に基づきM&Aを実施した場合に、株式等の取得価額の70%までの割合の金額を準備金として積み立てると、その金額を損金算入することができます。
今回は二つの制度のうち中小企業事業再編投資損失準備金(略称 M&A準備金)に関してご紹介します。
中小企業事業再編投資損失準備金(略称 M&A準備金)の概要
【現行制度】
令和9年3月31日までに事業承継等事前調査(実施予定のデューデリジェンスの内容)に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、株式取得によってM&Aを実施する場合に、株式等の取得価額として計上する金額の70%以下の金額を準備金として積み立てたときは、その事業年度において課税所得から損金算入が認められます(益金算入開始までの据置期間5年)。
【拡充枠】令和6年度税制改正
過去5年間にM&Aを実施した中堅・中小企業が、産業競争力強化法において新設する特別事業再編計画の認定を受けて株式取得によるM&Aを実施し、認定後1回目のM&Aにおいては株式取得価額の90%以下、2回目以降は100%以下の金額を準備金として積み立てた場合に、その事業年度において当該金額を課税所得から損金算入することができます(益金算入開始までの据置期間10年)。
※ 今年の5月に国会で可決され、実際の運用開始は夏から秋ごろが想定されています。拡充枠では複数回のM&Aを実施する場合には積立率を現行の70%から最大100%に拡充し、据置期間を現行の5年から10年に延長する措置を講じられました。
準備金制度の対象者は?
現行制度のM&A準備金は、中小企業等経営強化法に基づく「経営力向上計画」の認定が事前に必要となります。税制の適用を受けるためには、「① 特定事業者等」で、租税特別措置法上の「② 中小企業者等」に該当する必要があります。
① 特定事業者等(中小企業等経営強化法)
常時使用する従業員数が2,000人以下の法人
② 中小企業者等(租税特別措置法)
・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
・資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
※ ただし、資本金1億円超の法人に株式の50%以上を所有されている法人や前事業年度前3年度の平均所得金額が15億円の法人は除外されます。
<M&Aにおける譲渡側の企業について、制限はあるか?>
譲渡側の企業も「特定事業者等」に該当する必要があります。 また、実質的に他の事業者の事業を承継するものである必要があるため、グループ内及び親族内でのM&Aは対象となりません
経営力向上計画の申請・認定及び報告
M&A準備金の優遇税制を利用する場合は、M&Aの基本合意書締結後に申請が可能となり、最終合意(最終契約)前に計画の認定を受ける必要があります。認定を受けた計画の内容に沿ってM&Aを実行した場合、計画認定を受けた担当官庁への報告も必要です。
出所:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
中小企業のM&Aの現場では、基本合意から最終合意までの期間をできる限り短くすることが求められます。このような実態を踏まえ、令和6年度税制改正において、計画の認定前に事業承継等事前調査(デューデリジェンス(DD))を実施することが可能となりました。
出所:中小企業庁「中小企業事業再編投資損失準備金における計画認定に係る運用改善」
経営力向上計画申請プラットフォームからの申請方法
「経営力向上計画に係る認定申請書」は、経営力向上計画申請プラットフォームから電子申請が可能です。
中小企業庁のHPには電子申請のメリットとして上記の記載が紹介されています。申請から計画認定までの標準処理期間は30日(事業分野が複数の場合は45日)ですが、電子申請の場合14日(休日等除く)に短縮との記載があります。しかし、実際には14日よりもかなり多くの日数を要します。弊事務所で電子申請を行った案件では、申請から認定前の通知まで23日(休日等除く)掛かりました。経済産業局への問い合わせでは、M&A準備金の場合は審査が複数の管轄で行われる際は内部手続きが複雑のようです。最終契約日を伝えれば多少の融通は利くそうですが、歴日ベースで最低でも1.5ヶ月程度は必要と考えておいた方が宜しいかと思います。
なお、経営力向上計画申請プラットフォームにて申請書を作成するためには、事前にGビズIDプライムの登録が必要となります。既にGビズIDエントリーを登録済みの事業者はGビズIDプライムへの変更手続きが必要ですので、事前の準備をお勧めします。
<GビズIDとは?>
GビズIDは、政府が発行するアカウントで一つのID・パスワードで、様々な行政サービスにログインできます。GビズIDには、 gBizIDプライム、gBizIDメンバー、gBizIDエントリーという3種類のアカウントがあり、アカウントの種別により申請方法、可能な手続きが異なります。
<申請時の必要書類>
・ 経営力向上計画に係る認定申請書(様式第1)
プラットフォームにて必要な情報を入力していくと自動作成されます。
・ 事業承継等について支援措置を希望する場合の追加書類
★ 事業承継等に係る基本合意書等の相手方の合意を示す資料契約書
★ 事業承継等に係る誓約書
★ 事業承継等事前調査チェックシート
紙での申請方法
経営力向上計画申請プラットフォームにて申請書を作成できない等、紙での申請を行う場合には、申請書様式類ページから様式をダウンロードできます。
なお、経済産業部局宛てのみの申請については、令和4年4月より原則、完全電子化に移行されていますのでご注意ください。
<提出書類>
・経営力向上計画に係る認定申請書(様式第1)
・経営力向上計画チェックシート
※ 経営力向上計画申請プラットフォームから電子申請する場合はチェックシートの添付は不要です。例えば、チェックシートには「認定経営革新等支援機関の支援を受けた場合は、その名称等」を記載しますが、電子申請の際はプラットフォームに入力箇所が設けられています。
※ 経営力向上計画申請プラットフォームを利用して申請書を作成し、打ち出したものを郵送で申請する場合にはチェックシートの添付が必要となりますのでご注意下さい。
・事業承継等について支援措置を希望する場合の追加書類
電子申請の場合と同様