今年も、早12月。
2025年も年末を迎え、税務的に実行しておいた方がよいことはないか、の観点から今回は“生前贈与”について考えてみましょう。

生前贈与は、生前に無償で財産を譲渡する行為を言いますが、多くは親から子、又は祖父母から孫へという流れが多いと思います。
生前贈与のメリットとしては、財産を早期に次世代に移管することにより次世代の資金需要(結婚、子育て、住居購入など)を満足させ、あるいは、親世代の相続時財産を減らすことで相続税を節約できることではないでしょうか。また、基礎控除として年110万円分の財産を無税で移管できるメリットもあります。

1.生前贈与の種類

生前贈与の税制には2パターンあって、暦年課税と相続時精算課税があります。
今回は、最初に両税制の概略と留意点を解説し、次に具体的な利用例をみてみます。

2.暦年課税とは

暦年課税とは、原則として贈与を受けた年ごとに贈与税を課税する方式で、基礎控除として年110万円までは無税で贈与できます。もし、110万円超の財産を贈与する場合、超える部分について超過累進税率で10%~55%の贈与税がかかります。
なお、贈与後3~7年以内(2025年贈与は3年以内)に相続が起きた場合は、贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算し、これを生前贈与加算といいます。なお、納付した贈与税は相続税の前払いと扱われますが、生前贈与加算の対象者は相続人に限られます。

3.相続時精算課税とは

相続時精算課税とは、贈与時には課税せずに、将来の相続時に贈与財産を加えて相続税を計算する方式です。
相続時精算課税には要件があって、60歳以上の親から18歳以上の子、又は60歳以上の祖父母から18歳以上孫への贈与に限られ、金額は2,500万円(上限なく、何年かで利用可能)までです。相続時精算課税も110万円の基礎控除があるので、合計2,610万円まで無税で贈与できますが、超える場合は超える部分について20%の贈与税がかかります。暦年課税の超過累進税率(10%~55%)と比べると安いように見えますが、相続時精算課税は必ず相続時に精算するため、贈与税はあくまで仮払税金の位置づけです。

4.留意点

・課税方式としては暦年課税が原則で、相続時精算課税が例外の位置づけです。
従って、相続時精算課税の適用を受ける場合、最初の贈与税申告時(翌年3月15日まで)に申告書と一緒に戸籍謄本などを添付した「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出する必要があります。なお、いったん相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻ることはできません。
・110万円以下の贈与の場合、暦年課税でも相続時精算課税でも贈与税申告は不要ですが、相続時精算課税は例外扱いなので最初の贈与の時に「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。
・相続時精算課税は、2,500万円の特別控除枠を何年かにわたって利用することができます。2年目以降は「相続時精算課税選択届出書」の提出は不要ですが、申告書第2表の「特別控除額の計算」欄にて控除額2,500万円の枠を管理します。
・暦年課税の場合、100万円を毎年一定の時期に贈与する場合、税務当局に総額を分割して贈与した“連年贈与”と認定されるリスクがあります。対策としては3点、①贈与1回ごとに贈与契約書を作成する、②年ごとに時期・金額を変える、③基礎控除110万円超の贈与とし贈与税申告を行うなどがあります。

5.具体的な利用例

2つほど、有効な具体例を考えてみます。

①孫に暦年課税で贈与する。

孫は養子縁組でもしない限り相続人に該当しないため、暦年課税の生前贈与加算の対象になりません。一方、子は相続人に該当し対象になるので、一世代飛ばして孫に暦年課税で贈与するのは有効な対策です。


②収益不動産を子に相続時精算課税にて贈与するのも有効です。

相続時に、贈与財産は親の相続財産に加算する必要ありますが、家賃収入分は加算する必要がないことがメリットです。家賃収入は子の固有収入として子の財産形成に役立ちます。また、不動産が値上がりしたとしても贈与時の価格で固定されるので、加算額はあくまで贈与時の価額になります。反対に、価格固定は、値下がり時には不利になるのでご注意ください。