前回まで解説した“事業承継税制”は、ご理解いただけましたでしょうか。
今回は、”事業承継の進め方”について、ステップごとに考えてみたいと思います。

1.ステップ1 現状把握

事業承継の方法に正解はありませんので、あくまでも参考例です。
事業承継のステップ1は、現状把握に始まりますが、現状把握は自社を知ることで、例えばFS=Financial statements(BS、PL、CF)分析、非数値情報分析を実施します。

①FS(Financial statements)分析

経営分析を行い、同業他社と比べて自社のポジションはいかなる位置にあるのか、良いのか悪いのか、良い点は何?悪い点は?等の分析をします。
同業他社との比較にはTKC会員であればBASTバスト、非会員なら中小企業基盤整備機構の経営自己診断システム、経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)を用いる方法があります。また、自社の過年度数値と比較し最近の傾向を分析することも有意義です。 
これら経営分析によって、自社の強みと弱みを把握し、強みは伸ばし弱みは克服すべき課題として位置づけます。ようするに、自社の得意分野、不得意分野を知り、なぜそうなのかを分析します。

②非数値情報による分析

次に、数値情報以外の分析ですが、コアコンピタンス(事業価値の源泉)の把握が最も重要です。
競争力あるいは収益力のある事業には、必ずコアコンピタンスがあります。それは、例えば技術力、営業力、生産能力、ブランド、あるいはそれら複合的なものかもしれません。多くの中小零細企業では、経営者に帰属している例が多いと思いますが、経営者以外の誰かに帰属している場合や組織に帰属している場合もあります。会社のコアコンピタンスは何か、それは誰に帰属しているかを把握するツールとしては、SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)等がありますが、必ず特定のツールを用いないといけないというものではありません。

③ディスカッション

最も大事なことは、上記①②で得られた分析結果を、経営者・後継者・我々コンサルタントが議論し、現状を共有することにあります。志を共にする同志が情報を共有することで、事業承継がスタートできると私は考えております。

2.ステップ2 事業の磨き上げと仕組みづくり

事業を次の世代に円滑に承継するためには、営業赤字や債務超過の会社では誰も承継してくれないので、前段階として“事業の磨き上げ”が必要です。磨き上げによって、事業をより良い状態に仕上げ、後継者にバトンを引き継ぐことが可能となります。事業承継は経営者の交代を伴うので、前経営者において先送りされてきた経営課題の実行や事業内容の見直し等を行うチャンスといえます。

①事業の磨き上げ=効率経営による企業体質の強化

企業価値を磨き上げるには、資本効率を高め、企業体質を強化する必要があります。また、効率的な経営体質にすることも重要です。
経営の効率化には、
事業規模を適正規模に抑え企業体質強化によって固定費を削減、予算統制によって経費の無駄を削減し、不採算事業の整理・撤退によって得た資金は、優良事業の拡大、事業ポートフォリオの見直しに向けられます。これらの施策をタイムリーに実行するため、管理会計体制の充実を図ることが重要です。
企業体質を強化するためには、
債権管理の徹底や在庫管理の徹底により不良債権や滞留在庫を減らし、事業に必要のない資産の処分等によってBSのスリム化を図ることや、増資や内部留保の充実により自己資本を厚くすることが求められます。
更に、事業の継続には十分なキャッシュフローが必要なので、資金計画表による資金管理も必要です。

②経営理念の明確化と承継

経営理念とは、企業が経営活動を行っていく上での経営スタンスで、経営哲学とも言われます。経営者が創業しあるいは承継し関係者とともに今日まで繋いできた想いを後継者や従業員に浸透させることが重要です。この想いの伝承なくして事業承継はうまくいかないと思います。会議室に経営理念を掲示し、朝礼で経営理念を暗唱している会社を見受けます。やり方は様々でしょうが、経営理念は会社の存在意義に他ならないわけですから、あの手この手で理念を浸透させ共有化する必要があります。

③人材育成と権限委譲

 人の成長に権限移譲は欠かせませんし、責任を持つことで人は成長します。事業承継においては、特に後継者の育成が重要です。後継者の育成には、後継者自らの積極的な取り組みが求められますが、教育例としては以下のとおりです。

・社外取引先での勤務により人脈形成し、業界慣行等の習得
・会社内各部門のローテーションによる会社全般の業務と知識の習得
・役員登用により権限を委譲し、リーダーとしての責任と自覚を持たせる
・現経営者の指導による経営ノウハウの継承と見守り

④経営の組織化

中小零細企業は経営者のカリスマ性で維持されているといっても過言ではありません。中小零細企業には多くの人材がいるわけではありませんが、事業の持続期間を延ばすためには属人型から組織型に経営を転換する必要があります。組織的経営に転換するためには、事業分掌、権限規定、諸規定やマニュアル等の文書化。暗黙知から形式知への置き換えが必要です。
事業承継の最終形は、経営の組織化です。

3.ステップ3 環境づくり

次のステップは、環境づくりです。
 前段の情報を前提として、項目ごとに阻害要因、課題を拾い出します。この課題とそれに対する解決方針をまとめたものが“事業承継計画”です。

次回は、“事業承継計画書”の作り方を解説します。