特例事業承継税制は従前税制と比べて税務メリットがとても大きく、各要件も大幅に緩和されたので、事業承継に際しては特例事業承継税制の利用を前提とした前向きな検討が必要と思います。
 他方で、税制の要件を含めて、利用に際してはいくつかの留意点があります。

1.2023年3月末までに申請が必要

 特例事業承継税制は、2027年(令和9年)12月まで、相続でも贈与でも利用できますが、2023年(令和5年)3月末日までに都道府県に対する承継計画の提出が必要です。(2022年度税制改正大綱によれば2024年3月末日まで1年延長予定)時間が経つのはあっという間ですので、早めの対応が求められます。

2.3年要件に注意

 事業承継税制には3年という期間要件が多く見受けられます。
★贈与の場合=3年以上取締役で20才以上、
★資産管理会社の例外要件=3年以上継続して商品販売等、
★現物出資・贈与の3年規制=同族関係者から現物出資又は贈与により取得した贈与前3年以内の資産が資産合計の70%以上のときは承継税制Ng等、
 適用期限までの期間を考えると、3年要件を満たすのは大変なので早急な着手が求められます。

3.改正後事後要件に注意

 特例事業承継税制においても、事後要件(贈与・相続後も遵守すべき要件)がありますが、特に以下の要件に留意しましょう。
★5年間は代表者を辞められない。
★5年間は承継した株式を売却できない、つまり、対象とした株式は持ち続ける必要がある。

4.税制改正の不意打ちに注意

 贈与時に要件を満たしていても、将来の相続時(切替時)も要件を満たす必要があります。しかもその要件はその時点の税法によります。

5.特例事業承継事業承継税制と他の税制との使い分け、又は組合せ

 税制面は、いわずもがな特例事業承継税制が中心になりますが、無税になったとしても株価対策を無視するわけにはいきません。
 事後要件に違反して猶予された税金の納付が発生した場合や相続税の計算方法の問題(相続税は累進課税で計算されるため、株価が高いと株式以外の資産に対する税額が増加する)などがあり、株価はできるだけ低くしておいた方が有利です。
 従って、他の税制との組み合わせによる株式評価減対策等は非常に有効です。

6.事業承継税制ありきでは、うまくいかない

 事業承継は税制面だけに注意すればうまくいくものでなく、むしろ税制面だけに注力すると失敗するケースも多いといえます。
 事業承継は、4つの視点、つまり税制面に加えて、ビジネス面、法制面、金融面からの多面的なアプローチが重要と考えています。

 次回は、事業承継の進め方について、考えてみましょう。