~3月期決算申告の準備始まる~
3月期末を迎え、3月期決算法人の決算・申告への対応が始まるところかと思います。
今回は、各種優遇措置の中でも政府が特に力を注いでいる、中小企業向け「賃上げ促進税制」について解説いたします。
賃上げ促進税制は、その名の通り、前年に比べ給与支給額が増加した場合に、増加した額の一定割合の法人税額控除ができる制度です。
岸田内閣肝いりの政策なので、従前制度に比べて要件が緩和され、しかも、教育訓練活動の増加を伴う場合には、上乗せも可能というアメもあるので、申告書作成時には必ず適用可能か否か検討してみてください。
また、決算期末に検討するよりも、期初に求人計画、賃上げ計画、教育訓練計画等と併せて検討することで、本制度を戦略的に活用することも可能になります。
以下、賃上げ促進税制について、解説します。
1.適用要件
2022年4月1日開始事業年度以降、中小企業者等の雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加した場合、雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額から控除できます。
(上乗せ措置1)
雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加した場合、税額控除率が15%上乗せになります。
(上乗せ措置2)
教育訓練費の額が前事業年度と比べて10%以上増加した場合、税額控除率が10%上乗せになります。
上乗せ措置1,2は、いずれか一方、または両方の適用が可能です。例えば、上乗せ措置1,2とも満たす場合、雇用者給与等支給増加額の40%を法人税額から控除できます。
なお、法人税から控除できる額は、法人税額の20%が限度となります。
2.用語の意味
1.適用要件中の用語の意味は次の通りです。
用語 | 意味 |
中小企業者等 | ・青色申告書を提出する者のうち、以下に該当する者 ・資本金額又は出資金額が1億円以下の法人 ・資本金又は出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000名以下の法人 ・農業協同組合等 ※前3事業年度の所得金額平均額が15億円を超える法人は対象外 |
雇用者給与等支給額 | 適用事業年度のすべての国内雇用者(法人の使用人で、労働基準法108条に規定する賃金台帳に記載された者※)に対する給与等の支給額合計 ※役員と特殊関係のある者、使用人兼務役員は除外される パート、アルバイト、日雇労働者は含まれる |
雇用者給与等支給増加額 | 適用事業年度の雇用者給与等の支給額から前事業年度の雇用者給与等の支給額を控除した金額 |
教育訓練費 | 国内雇用者に対して、教育、訓練、研修、講習等(教育訓練等)を自ら行う場合 ・教育訓練等のために講師または指導者に対して支払う(社外の者に限る)報酬その他の費用 ・教育訓練等のために施設、設備その他の資産を賃借する場合の賃借費用、コンテンツ使用料 法人から委託を受けた他の者がその法人の国内雇用者に対して教育訓練等を行う場合 ・その教育訓練等のためにその他の者に対して支払う費用 法人がその国内雇用者を他の者が行う教育訓練等に参加させる場合 ・その他の者に支払う授業料その他の費用 |
3.事例
A社(資本金1,000万円、青色申告法人)の2023年3月期の雇用者給与等支給額2,000万円、教育訓練費の額100万円。前期の雇用者給与等支給額1,900万円、教育訓練費の額80万円。
(1)雇用者給与等支給額の増加額
2,000万円-1,900万円=100万円
(2)雇用者給与等支給額の増加率
100万円÷1,900万円=5.2%≧2.5% ∴控除率15%+上乗せ15%=30%
(3)教育訓練費の増加率
(100万円-80万円)÷80万円=25%≧10% ∴上乗せ10%
(4)控除率
15%+上乗せ15%+上乗せ10%=40%
(5)控除額
(1)100万円×(4)40%=40万円
※法人税から控除できる額は、法人税額の20%が限度
このように、前期より多く支給した給与額100万円は当然のごとく損金になり、更に40万円の法人税額控除の恩恵を受けることができます。