2023年5月31日、国税庁は2023年度税制改正において税制適格ストックオプションが要件緩和されたことを踏まえ、ストックオプションの取扱いを明確にするため、「ストックオプションに対する課税(Q&A)(情報)」を公表しました。
Q&Aは問1~6によって構成されますが、問3で信託型ストックオプションは権利行使時に給与所得課税(最高税率55%)することが明記され波紋をよんでおります。従前、権利行使時には課税せず行使後の株式を譲渡した際に譲渡所得税(約20%)が課税されるとの見解もあっただけに、対象会社及び対象者が受けるダメージは深刻です。
国税が言う給与所得課税の根拠としては、実質的に会社が役職員にストックオプションを付与し、役職員に金銭等の負担がないため、役職員が受ける経済的利益は労務の対価として給与課税されるとのことです。(税制適格要件を満たすケースは給与所得課税されません)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/230428/index.htm

本件に関しては、業界紙である税務通信において大変わかりやすい解説記事が掲載されているので、参考までに転載させていただきます。皆さん、税務通信購読してね。

(以下、週間税務通信3756号)

SOの株価算定ルール見直しで行使価額1円も可能へ

国税庁が税制適格SOの措置法通達等の改正案を公表未上場のスタートアップは税制適格SOが使いやすく
( 02頁)
既報( №3755 )のとおり、国税庁は5月30日、税制適格ストックオプション(SO)の株価算定ルールに係る租税特別措置法通達等の一部改正(案)の意見募集を開始した(意見募集の締切は6月29日まで)(55頁に資料掲載)。
改正案によると、今後の上場を見込むスタートアップ等であれば、純資産価額方式等に基づき税制適格SOに係る「付与契約時の1株当たりの価額」を算定できる。純資産価額方式等に基づき算定した「付与契約時の1株当たりの価額」が“1円”となり、権利行使価額を“1円”と設定した場合でも、税制適格SOに係る権利行使価額要件を充足することになるという。この取扱いは、同通達の発遣日以後にSOの権利行使を行う場合に適用される予定だ。

行使価額を低く設定することが可能に

権利行使時の課税繰延べが認められる税制適格SOに該当するための要件の一つとして、権利行使価額要件が設けられている。具体的には、1株当たりの権利行使価額が、「付与契約時の1株当たりの価額」相当額以上であることとされている( 措法29の2 ①三)。
これまで、「付与契約時の1株当たりの価額」の算定方法は明確化されておらず、実務上は、会計上の価額等を「付与契約時の1株当たりの価額」とし、国税当局から権利行使価額要件の指摘を受けないよう、権利行使価額を高めに設定することが多かったという。
今回の改正案では、「付与契約時の1株当たりの価額」は、売買実例等で算定した価額であることを明確化した上で、取引相場のない株式について、一定の条件の下、財産評価基本通達の評価方法(【参考1】)による算定を認めることが示された。
非上場のスタートアップ等は、「付与契約時の1株当たりの価額」について、会計上の価額等に比べて、財産評価基本通達の評価方法で算定した価額の方が低くなることが一般的であるため、権利行使価額も低く設定できるメリットがある。また、1株当たりの権利行使価額が、財産評価基本通達の評価方法で算定した「付与契約時の1株当たりの価額」以上であれば権利行使価額要件を充足することになるため(いわゆるセーフハーバー)、国税当局から、同要件の充足性について指摘されるおそれが軽減されるという。

【参考1】財産評価基本通達の評価方法等( 評基通179等)
 評価方法
大会社の株式類似業種比準方式(純資産価額方式も可)
中会社の株式類似業種比準方式・純資産価額方式の併用方式(純資産価額方式も可)
小会社の株式純資産価額方式(類似業種比準方式・純資産価額方式の併用方式も可)
同族株主等以外の
者が取得した株式
配当還元方式(純資産価額方式等も可)

評基通に基づくには一定の条件

財産評価基本通達の評価方法に基づき「付与契約時の1株当たりの価額」を算定する場合には、一定の条件として、(1)SOを付与される者が発行会社にとって「中心的な同族株主( 評基通188 (2))」に該当する場合、その発行会社は「小会社」に該当すること、(2)純資産価額方式による場合の「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算において、発行会社が保有する土地等や上場有価証券は、そのSOに係る契約時の価額によること、(3)純資産価額方式による場合の「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算において、「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」は控除しないことがある(措通(案)29の2-1(1)~(3))。
例えば、(3)の条件では、純資産価額方式による場合に「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を控除せずに算定するため、財産評価基本通達の純資産価額方式とは、一部異なる算定方法となる。
● 純資産価額方式による「付与契約時の1株当たりの価額」の算定方法

(総資産価額-負債の合計額)÷発行済株式数

配当還元方式による算定もOK

この点、非上場のスタートアップ等は、払い込まれた金銭を早期に広告宣伝費や役員報酬等に充てるため、純資産の価額が低くなる傾向にあるようだ。
非上場のスタートアップ等が、純資産価額方式に基づき「付与契約時の1株当たりの価額」を算定するケースも多くなることが想定されるところ、例えば、総資産価額300万円、負債の合計額250万円、発行済株式数1,000株のケースでは、純資産の価額50万円(総資産価額300万円-負債の合計額250万円)を発行済株式数1,000株で除した500円が「付与契約時の1株当たりの価額」となる。付与契約時の1株当たりの価額500円以上の権利行使価額を設定すれば、税制適格SOに係る権利行使価額要件を充足する。
前述のとおり、非上場のスタートアップ等は、純資産の価額が低くなる傾向にあるところ、純資産価額方式で算定した「付与契約時の1株当たりの価額」が、極端に低い価額、例えば、“1円”になることもある。国税庁によれば、純資産価額方式等に基づき算定した「付与契約時の1株当たりの価額」が1円で、それ以上の価額として権利行使価額を1円に設定した場合でも、権利行使価額要件は“1株当たりの権利行使価額が、「付与契約時の1株当たりの価額」相当額 以上 であること”とされているため、同要件を充足するという。権利行使価額1円と株式譲渡時の時価の差額が「株式譲渡益」となるため、SOを付与された役職員のインセンティブが非常に大きいものとなるわけだ。
また、【参考1】のとおり、同族株主等以外の者が取得した株式の場合、配当還元方式に基づく算定も可能であるため、純資産の価額等を勘案し、純資産価額方式と配当還元方式のいずれの方式で「付与契約時の1株当たりの価額」を算定するか検討することも一法だろう。

優先分配分を除いて普通株式を算定

今回の改正案では、種類株式を発行している場合には、その内容を勘案して「付与契約時の1株当たりの価額」を算定することも示された(措通(案)29の2-1(注))。
スタートアップ等はベンチャーキャピタル(VC)から出資を受け、VCに対して残余財産の分配等に係る優先株式を発行しているケースが多いところ、改正後は、優先分配分を除いて普通株式の「付与契約時の1株当たりの価額」が算定できる。